本年1月22日、北京で張韶先生が逝去されました。享年88歳。
先生は、長く演奏家として活躍され、また多くの優れた演奏家を育てましたが、来日の機会がなく、二胡界においてどのような偉業を成し遂げた方なのか、日本ではあまり知られていないかもしれません。今回、「追悼」という形でしか先生の業績を紹介することができなくなり、誠に遺憾ではありますが、先生と縁の深いお三人の方から気持ちを込めた追悼文をお寄せ頂きましたので、ここに掲載し、多くの皆様に先生が如何に大きな存在だったかを知って頂く一助にするとともに、哀悼の意を表したいと思います。
張韶(Zhāng Sháo/ちょう・しょう)プロフィール
1927—2015 江蘇省武進県出身。漢族。
劉天華直系の孫弟子にあたる二胡演奏家であり、長く中央音楽学院等で教鞭を執り、現在活躍中の多くの演奏家を育てた教育者としても知られる。中国音楽家協会二胡学会の母体となった北京二胡研究会の設立メンバーの一人で、後に中国音楽家協会二胡学会会長を長く務め、また、現在広く実施されている「中国二胡検定」の創設に尽力する等、生涯を通し二胡に関する各方面の研究、実践に心血を注いだ。
二胡の楽器改良に関しては1948年頃より研究・開発を試み、それまでの弦、琴軸、千斤等に見られた不具合を減らし、安定性を高め、独奏楽器としての機能を具える現代の二胡発展の礎を築いた。
また、1956年から中央人民ラジオ局の二胡講座の番組で講師を務め、放送を通して二胡の普及をはかった。番組用に著したテキスト『二胡広播講座』は、改訂を重ね、中国以外の国、地域にも流布し、二胡愛好家の裾野を広げた功績も大きい。この教本は、二胡を効率よく習得するための解説や練習曲に加え、総合的な知識を得られる教養書としての内容も豊富な名著で、日本語版は『張韶老師の二胡講座』のタイトルで上巻が2012年に出版されている(下巻は近日中に発行の予定)。
張韶は劉天華からの二胡芸術の伝統を受け継ぐ者として、後進に継承の端緒を開き、さらに、伝統的な諸流派の長所を取り入れて集大成し、二胡技法の理論体系を打ち立てた。また、演奏、教育を専門化及び規範化へと方向付けており、二十世紀の二胡芸術発展史に及ぼした影響の大きさ、深さは計り知れない。