第17回 村松克子先生の黒檀二胡

 うららかな季節も過ぎ、すっかり新緑の時期になってきたのう〜、ご存じアルフー老師じゃ。さて、前回は真冬の長野まで、なんとも優しい性格の二胡奏者を訪ねて行ったが、今回は、遠州灘沿岸の街に名器を所有した二胡奏者がおるとの情報を聞きつけたため、キン斗雲を南に走らせて目的地へ向かったぞ! 今回降り立ったのは、徳川家康の時代にその地の名を改めたという歴史と、現在は楽器や音楽関連産業が盛んなことでも知られる、静岡県浜松市じゃ。この街を拠点に演奏活動をしながら教室を開設し、名器を所有しておるのは、二胡演奏家で講師の村松克子(むらまつ かつこ)さんということじゃった。レッスン前の忙しい時間にも関わらず、とても初対面とは思えない気さくなノリでこの爺に接してくれ、愛器にまつわるエピソードについて、ざっくばらんに、且つ親切に解説してくれたぞぉ〜!!
 村松さんは十数年前、日本の二胡黎明期である90年代半ばに二胡を始められたそうで、長きにわたって二胡を学んだ天華二胡学院では、賈鵬芳先生や周耀?先生に師事していたということじゃったよ。現在も、女性奏者としての視点で学ぶため、東京は大森にある劉鋒先生の研究会まで毎月通い、中国曲をどっぷり勉強しているということじゃった! いつまでたっても学習熱心な姿勢は、う〜ん、この爺も見習わんといかんのう〜(泣)。そんな村松さんが演奏活動やレッスンにおいて使用しておる楽器は、「宋廣寧」氏製作の北京式龍頭黒檀二胡ということじゃった。それでは早速、本人のコメントを交えて紹介させてもらうことにしよう。

宋廣寧精製 北京式龍頭黒檀二胡全体

村松:私が中国楽器を初めて目にしたのは、香港の中国笙(sh?ng/シェン)奏者をホームステイで受け入れたことが最初でした。その後、二胡を始めることになるのですが、必ずしも興味があって始めたのではなく、中国の師範大学に通う、語学サークルで知り合った日本人の知人が二胡を2本所有しており、そのうちの1本をたまたま譲ってもらったことがきっかけとなりました。当時は、二胡の選択肢が現在のようにいろいろある時代ではありませんでしたから、その最初の楽器も、上海民族楽器“敦煌牌”の入門用紅木二胡でした。そんな訳で十数年前に二胡ライフが始まったのですが、まだ右も左も分かりませんでしたから、始めは地元浜松のカルチャースクールで学びました。その後、2001年頃から東京の天華二胡学院に通い始めることになったのですが、2本目となるこの宋廣寧氏製作の北京式龍頭黒檀二胡を手に入れたのは、天華教室2年目の2002年のことでした。まだ現在のようにインターネットの情報が少なかった頃、とあるサイトの掲示板に希望を書き込んだところ、北海道に住む二胡奏者より、ある二胡教室の生徒さんの注文がたまたまキャンセルになった龍頭二胡を所有しているとのお話をいただきました。画像を確認したところ、龍頭の形状も美しい状態の良さそうな黒檀二胡だったため、譲っていただくことにしました。それから今に至るまで、ずっとこの北京式龍頭黒檀二胡を愛用しています…これまでに他の楽器を弾く機会は何度もありましたが、この二胡に勝る楽器は一つもありませんでした…。とにかく音量が大きく、どっしり、しっかりした低く重たい音色は、レッスンや演奏活動の場で存在感を発揮し、大活躍しています!

老師:「宋廣寧」氏は、この“見聞録”に度々登場しておるが、著名な演奏家の名器も手掛ける専門職人じゃ。この黒檀二胡は、昔ながらの前方八角、後方円形の北京式二胡特有の形状をしており、琴頭には、珍しい形状の龍頭彫刻の装飾が施されておるぞ! 村松さんがその楽器を奏でると、なるほど北京式二胡らしい豊かな音量があり、しっかりとした低音が響いている中にも枯れた味わいのある、力強くも優しい音色じゃったぞぉ〜(泣)


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