第16回 津閣先生の紫檀二胡

 ?好! アルフー老師じゃよ。中国の春節も過ぎ、芽吹く季節の到来を感じるようになって来たのう〜。さて、前回は東京で意欲的に活動しておるアーティスティックな二胡奏者のもとを訪ねたが、今回は、真冬の信越地方に名器を所有した二胡奏者がおるとの情報を聞きつけたため、寒空の下、凍りそうなキン斗雲を西に走らせて目的地へ向かったぞ! 今回降り立った場所は、その昔は製糸業の中心地として栄え、精密機械工業が盛んなことでも知られる、長野県岡谷市じゃ。この街を拠点に演奏活動をしながら教室を開講し、名器を所有しておるのは、二胡演奏家で講師の津閣(しんかく)氏ということじゃった。津閣氏は、「二胡之友」第29号の巻頭特集“琴縁弦和 東西南北二胡コンサート”の長野会場レポートでも、その軽快な演奏が紹介されておったが、お会いしてみると細やかな気配りもできる、とても優しい性格の若者じゃったよ。初対面にも関わらず、凍てつく屋外から来た爺に温かいコーヒーを振舞ってくれ(感涙)、こちらからの質問一つ一つに対しても、丁寧に解説してくれたよぉ〜!!
津閣氏は中国遼寧省大連市出身で、二胡の学舎として名高い北京師範大学音楽学部二胡専科では、国家一級演奏家である王宜勤先生に師事、卒業後は、母親が経営する鞍山台安英才芸術学校で、ダンス・歌・二胡を教えていたそうじゃ。日本アニメなど様々な日本文化に惹かれ2010年に来日を果たし、現在は株式会社未来創造社の専属アーティストとして、また瑞雅二胡学院の主任講師として活躍しているということじゃったよ。そんな津閣氏が演奏活動やレッスンにおいて使用しておる楽器、「王乃正(おう・ないせい)」氏製作の蘇州式紫檀二胡について、早速、本人のコメントを交えて紹介させてもらうことにしよう。

王乃正精製 蘇州式紫檀二胡全体

Shin:私は中国の大連出身で、12歳から大学までの間、二胡を専門的に学びました。12歳の時、学校の中に中国の民族楽器専門のクラスがあり、そこで最初に手にした楽器は、学校備品の入門用二胡でした。それから高校までは、寮に住んで生活しながら勉強していたのですが、最初の楽器を使い始めてから2〜3年、つまり高校に入る前くらいの時期から、当時4,000元だった黒檀二胡を借りることになり、大学までは、その楽器を使用していました。日本でもそうかもしれませんが中国では、二胡は暗く悲しい音色のイメージがあり、当日使っていた黒檀二胡の音色にもある種の暗さを感じていたため、二胡には明るい側面もあるということを伝えたくて、新しい二胡の購入を決意しました。それが、この王乃正氏製作の蘇州式紫檀二胡なんです。父親の知り合いから紹介してもらったのですが、天津市の郊外に王乃正氏の製作工房があり、その近くの、ごく普通の住宅街の民家の中に展示ルームがありました。王氏の楽器ばかりが展示された部屋で、沢山ある在庫の中から、この蘇州式紫檀二胡を選びました。日本に来る2年前くらいに、当時10,000元で購入したもので、現在も、演奏活動やレッスンで愛用しています。この紫檀二胡の音色は、以前の黒檀二胡と違って暗くなく、優しさがある中にも紫檀らしい明るさがあり、音に厚みがあります。また、高音部がコントロールしやすく、雑音が出にくいんです! 演奏活動でも大活躍してくれており、とても元気な二胡のため、マイクを通して他の二胡と合わせる時などは、PAさんが音量を抑えるくらいなんです(苦笑)。

老師:「王乃正」氏は、中国音楽協会二胡学会による全国二胡職人のコンクールで、金賞を受賞したこともある天津の二胡製作大師で、王氏の二胡は中国の音楽大学の教授や学生も愛用しておるんだそうじゃ。その確かな品質、仕上げの綺麗さには定評があり、表情豊かで深みのある音色は、上級演奏家の高い要求にも応えてくれるということじゃよ。因みに、弓は尹氏の黒い上塗りがなされたものを使用しており、堅過ぎず、程よいコシがあってコントロールしやすく、持つ瞬間に手に馴染むということじゃった。津閣氏にその音色を聴かせてもらうと、なるほど十分な音量で鳴り響き、紫檀らしい明るさの中にも憂いがあり、透明感を伴ったその音はとても美しく、雪深い信州の山々に溶けて行くようじゃったよぉ〜(泣)


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